【厚生労働省インタビュー後編】*「技術の保険適用化に向けて、さまざまな研究やエビデンスを集約していく。」
厚生労働省 保険局医局課 医療技術評価推進室長
木下 栄作
厚生労働省 保険局医局課 医療技術評価推進室長 木下栄作氏へのインタビュー続編です。(インタビュアー:FCHアンバサダー サキ吉)
スタッフ:現場の声として数多く上がっているPGT-Aをはじめとした保険適用化を望む治療について、現在もしくは今後保険適用化が予定されている治療はございますか。 また、次年度以降に予定されている大きな変更や新たな施策はございますか。
現時点でエビデンスが不十分のため保険適用となっていない技術であり、将来的に保険適用に位置づけられる可能性がある技術については、先進医療会議において、一定の有効性・安全性が認められれば、保険診療と併用が可能となっております。
先進医療という位置づけの中で、さまざまな研究やエビデンスを集めるものもあって、その中の一つとしてPGT-Aを挙げていただいていると推察しております。
現場の先生方で治療と研究の取り組みを進めて、現在データを集めて頂いているところですが、必要なエビデンスを集めていくという作業を各種不妊治療に関わる学会等や現場の先生方を中心にやっていただいております。
先進医療については、一定のエビデンスが集約されれば、次のステップとして保険に入ってくるという流れになっています。
また、その先進医療にならない部分に関しましては、おそらく学会等を中心にまずは研究の準備がされていくと思いますので、そのことも踏まえたうえで学会等と連携しながら少しずつ増やしていければと思っています。
スタッフ:この制度が医療費全体に与えた影響や予算の増減についての情報があれば教えてください。
既に公表しているデータになりますが、不妊治療にかかる診療行為の医療費としましては、令和4年度で897億円、令和5年度で991億円になっています。
不妊治療に係る診療行為の算定の診療報酬の明細書、いわゆる何件の方が受けられたかという形としては、令和4年度の合計で約125万5000件になります。
ただ月々の件数の総数となるので、125万人ではありません。
同じ人が何度か受診していたりもするので、このままの数字を使うのが難しいですが、令和4年度はレセプト(医療機関が保険者に診療報酬を請求するために発行する請求明細書)の枚数でいくと約125万5000件で、令和5年で約132万8000件という数字となります。
このレセプトを人数ベースに置き換えると、実患者数として、令和4年度では約37万人利用されているのではと予想されます。
スタッフ:私も不妊治療を経て32歳で授かったのですが、友人も32~33歳で不妊治療をはじめた人が多く、昨年だけで12人が子どもを授かっています。 保険適用制度のおかげで、かなり気軽に治療を受けられるようになったと感じています。
スタッフ:現在、制度の運用において起こっている主な課題や問題点は何でしょうか。
今回の改定で一定程度、ご要望頂いていたところに関しては対応できていると思います。
一方で、やはり普及啓発をもっとやっていかないといけないと思っています。
主にこども家庭庁で、不妊症・不育症に関する広報・啓発促進事業で、不妊症のクリニックに情報提供の協力のお願いをしています。
これら医療機関から登録された情報を、こども家庭庁のウェブサイトに集めて、都道府県ごとに検索できるようになっているというところです。
そのような情報がしっかり沢山入るように、もっと普及活動をしていただけるように流れを作っていかなければならないと思っています。
そういった形で、出来る限り患者さんが「使えるように・選べるように」という方向に持っていければと思っております。
あとは学会のご協力をいただきながら、治療に関するデータや先進医療等の新しい技術に関しましても、保険適用される様にしっかりとエビデンスを取り入れていきたいと考えています。
そういった形で、課題をクリアしていければと思っています。
スタッフ:保険適用後、人気のクリニックの患者さんの数が増えて予約が取りにくい状況になっているとも感じます。 患者側の視点としては不便に感じることもありますが、各クリニックさんで予約システムがもっと整備されればいいなと思っています。 これからもっと保険制度が改定されていき、例えば今承認されていない薬が承認されたりだとか、新たな治療が保険に提供されたりとかすると、やはり先進医療を取り扱っているところはどうしても間口がどんどん狭くなっていくと思います。 保険とは少し異なりますが、クリニック側と何か連携して出来ることがあれば良いという風には思いますがいかがでしょうか。
保険適用となったことにより、年齢制限によるかけ込みでの需要と、費用負担面でのハードルが低くなったことにより治療を希望する方が増えたことで、令和4年と5年は、おそらく予約が取りにくい状況だったと思います。
一方で、婚姻数が減っているので、子どもを持ちたいというご夫婦の分母が減ってきているという問題も、かなり大きい要因となるかなと思っています。
恐らくその数が減ってくると、治療する方々も減っていき、クリニックの飽和や予約が取りにくい状態は、いい意味か悪い意味かは別として徐々に解消していくのかなと思います。
治療を受けたいという方が受けられる環境という意味では、キャパを増やすというのも一つの選択肢かもしれないですが、安心安全という面から見た場合にどちらが良いのかは疑問が残ります。
逆にクリニックを受診される方が減ると、今度は経営面の問題が出てくるので、なかなか良いバランスというのは難しいとは思います。
スタッフ:これまでのフィードバックを踏まえ、どのような改善策が検討されていますか?
主に診療報酬の改定プロセスは、2年に1回行なっています。
その間に得られた実績と、あとは学会等からのご要望や新しい知見に基づいて、中医協の方で議論していくというサイクルを取っております。
そういう流れの中で、学会の先生方からよくご意見を伺いながら必要な改善を行っていきたいと思っています。
スタッフ:今後、先端技術を取り入れておられ、生殖学会などに参加されているクリニックの先生方と意見交換などを行う予定はありますか。
関係各所の講演会等には呼んでいただき、私が着任してからだけでも学会の方に数回参加させていただいております。
様々な形で意見交換させていただいていますし、国会議員の先生方の勉強会にもお呼びいただいておりますので、そういう場も通じて意見交換をするという機会は様々あるかなと思っています。
スタッフ:当サイトと提携をして下さっているクリニックさんたちの中でも、厚生労働省の方との意見交換を望んでおられる方はまだまだたくさんいらっしゃると思います。
学会等を通じて、現場の医師の方からのご要望もいただいております。
学会の中で、特に優先度の高い技術等、数百あるものを精査して次回の改定に乗せられるよう進めております。
学会としてのご提案ということになり、ハードルは少し上がってしまうかもしれないですが、学会内でまずは精査していただくというプロセスに乗っていただくことにはなります。
恐らくはどの医師の方も学会に所属されていると思いますので、その中でご提案下さったものを学会の皆様の中で認めていただき、エビデンスと共にご提案いただければと思います。
スタッフ:FCHとしては、今後も不妊治療保険適用に関する情報の発信に邁進したいと思っております。 厚生労働省とも、このように定期的に意見交換の場をつくっていただき、情報発信させていただければと思います。
はい、われわれも様々な情報を得たいのでまたよろしくお願いいたします。