【厚生労働省インタビュー前編】*「不妊治療の保険適用について、現場の先生方と一定のルールの中でやっていくことのアジャストや新たな試みをご納得いただきながら、課題を一つ一つ対応してきた。」
厚生労働省 保険局医局課 医療技術評価推進室長
木下 栄作
厚生労働省 保険局医局課 医療技術評価推進室長 木下栄作氏にインタビューさせていただきました。(インタビュアー:FCHアンバサダー サキ吉)
スタッフ:今回の不妊治療保険適用を引き継がれ、ご苦労されたことはございましたか。
保険適用に至ったきっかけとして、菅内閣の基本方針の中で少子化対策のための一つである不妊治療保険適用という流れがありました。不妊治療の保険適用は2年前の令和4年の4月から実施されることとなりました。
それまでの不妊治療は自由診療としての取り扱いであり、価格も自由診療としての費用ですので様々でしたが、関係学会等での議論の上、様々な部分の整備があり、保険のルール内でやっていただくということになりました。
現場の先生方からすると、自由に今まで行えていたものに対して一定の回数制限や年齢制限があり、保険の中で使える薬や検査も縛られていくということで、一定のルールの中でやっていくというところのアジャストや、新たな試みをご納得していただくことについての様々なご意見を聞きながら進めてまいりました。
現場の先生方からいろんなお声を頂きながら、やりにくい部分の問題に対してどう手当てをしていくのかというところの苦労があったかなと思っています。
不妊治療保険適用が始まってから2年ほどしか経ってないので、そういった運用上の課題を一つ一つ対応していくところが一番大変だったと思います。
スタッフ:私も不妊治療をしましたが、保険適用前だったこともあり、200万円以上かかってしまい大変でした。 また、不妊治療保険適用に関してSNS等発信をしていると、回数や治療に制限があったりして治療を受けられなかったという方からのお声も多く聞かれます。 当事者の皆さんのお声の中で多い事柄について今後改定等があればいいなと思っています。
スタッフ:適用拡大以降、薬剤の認可等、様々な改定が設けられていますが、最も当事者に寄り添って協議されたのはどういった部分だと思われますか。
スタートしてから2年が経ち、1回目の不妊治療の保険適用の見直しが令和6年の診療報酬改定でした。
基本的に会議自体は中医協(中央社会保険医療協議会)でご議論いただき、見直しを行いました。2点ご紹介いたします。
一つめは、胚の凍結保存管理に関してです。
当初、3年間でスタートしていましたが、何年が望ましいのかというところの問題点が残っていました。
今回規制を撤廃し、保存期間の制限を取り払ったところです。
二つ目が、一般不妊治療管理料についてです。
これまでは、診療を年間20例以上やっているという要件を課していましたが、地方のクリニックや一般の診療をやりながら不妊の治療もやっているところだと、年間20例がクリアできないところもあったので、要件を見直しました。
見直し後は、その病院で診療に当たっている先生1名以上は不妊にかかる診療を20例以上やっているという「医師の要件」とし、幅広く一般の不妊の診療が全国で受けられるように要件の緩和を行っています。
一般のクリニックであっても、受ける機会が広がるように手当てをしているところです。
スタッフ:今後、医療従事者及び患者からの要望などを盛り込んでいただける可能性はございますか。 またFCHでも日々の活動でそういった方々の要望をお聞きする機会が多いのですが、それをまとめて提出させていただき、ご考慮いただくことは可能でしょうか。
いろんな方からご意見を伺いながらやっているところで、医療従事者だけではなく当事者の方々からの意見を伺いながら、対応が可能なものについては引き続き議論していきたいと考えているところでございます。
FCHの方で、不妊治療の体験談の募集や患者さんの声を投稿するというような取り組みや、その中でもよくある質問や相談内容というものがあり、それにQ&Aというような形でお答えいただいていると認識しています。
またHP等の内容についても行政が作るものだとどうしても堅苦しくなりますし、柔軟性がないというか、文字面だけで伝えることが多いので、情報発信についてご協力をいただくことは大歓迎です。
その点もご意見の一つとしてとらえるように善処いたします。
スタッフ:今後民間の声を反映するとしたら、どのような形で声を上げるべきだと思われますか。
民間の声を一つ一つ拾い上げるというのはなかなか難しい立場ではあるので、最初の令和4年の診療報酬改定の際には、中医協の会議の中で患者様団体(当事者の団体の方々)にも来ていただいて、回数の要望というものを提出していただき、実際お話を伺う機会というものもありました。
今回の見直しの令和6年度の改定の際にも、その議論の中で関係団体と関係の学会から意見をそれぞれ集約していただいたものを資料としても出していただきました。
当事者の方からの意見も伺いながら、引き続き診療報酬改定の中で対応できるものについて議論していきたいというように考えております。
スタッフ:結婚・不妊治療・妊娠・子育て・老後と様々なステージに細分化されており、省庁の役割としても分担されていると感じますがその辺りの連携はどのように取られていますか。
ざっくり言いますと、厚労省とこども家庭庁、さらには内閣府と連携してという話になろうかと思っています。
その中の治療、その中のさらに保険診療の部分というところが厚生労働省の仕事かなと思っています。
一方で、ご指摘いただいているようにステージが細分化され、それぞれのステージに応じた対応が必要であると認識しています。
治療に関して言えば、有効性と安全性が尽くされたものでなければならず、子どもを授かりたいと思われる方々の気持ちに沿い希望する方が安心して不妊治療を受けられるよう、支援について、こども家庭庁とも連携しながらやっていく所存です。
具体例を挙げますと、こども家庭庁でやっていただいている仕組みの中で、不妊専門相談センター事業、不妊症と不育症の支援のネットワーク事業、ピアサポーター育成研修事業、さらには普及啓発のための広報事業といった形で相談体制の強化や正しい情報の周知広報といった取り組みも既にやっている部分もございます。今後もそれぞれの必要部署との連携をしながら進めてまいります。