【不妊治療当事者様インタビュー】笛吹 和代 様*職場での理解不足と心ない言葉に傷ついた不妊治療の現実とは
臨床検査技師・不妊カウンセラー
笛吹 和代
臨床検査技師・不妊カウンセラーとして女性のサポートを行っていらっしゃる"笛吹 和代"様にインタビューにお答えいただきました。
スタッフ:不妊治療を始めたきっかけは何ですか?
結婚して1年ほどは、仕事優先でタイミングが取れたり、取れなかったりの妊活をしていました。避妊をしなくなって、1年半ぐらい経ったタイミングで妊娠しましたが初期の流産でした。
その頃から不妊治療について色々と調べ、仕事的に少し落ち着いたタイミングで、不妊クリニックを受診しました。不妊クリニックを受診することに抵抗はなく、何か原因が見つかって治療が出来れば、スムーズに授かることが出来るのではないか?というぐらいの気持ちでした。
スタッフ:不妊治療をしていて辛かったことはありますか?
ちょうど職場が妊娠・出産ラッシュだったのが辛かったことのひとつです。当時は不妊治療を公に言う雰囲気はなく、こっそりと治療をしている人がほとんどでした。私自身も、部内では仕事の影響(残業が出来ない)を考えて不妊治療のことを伝えていましたが、他部署には伝えていなかったため、「子どもの作り方知らんか?」など心無い言葉をかけられることも少なくありませんでした。また通院のために定時退社をしていると、「社員なのだから残業しろ」と言われたり、「仕事をさぼっている」と陰口を言われたりすることもありました。
当時は産休・育休ラッシュでどこの部署も人員的にひっ迫していた状況だったこともあり、他部署の管理職に「〇〇(私の所属していた部署です)は誰も妊娠しなくて羨ましい」と言われた時は、怒りを通り越して悲しくなったことは今でも忘れられない出来事です。
不妊治療そのものに関しては、治療データなどを見ていたこともあって淡々と結果だけを受け入れていました。
スタッフ:パートナー様やご両親、友人、職場の方々との関係はどのような感じでしたか?
2010年頃は、まだまだ不妊治療は女性がするものという世間的な認識も強く、パートナー自身が口を出してくることもなく、特にもめたことはありませんでした。
私自身が自分のペースで自分の考えで動きたいタイプなので、その点を尊重していてくれたのだと思います。
両親には不妊治療の話をしたことはありません。何か思うところはあったかもしれませんが、何も言わずに見守っていてくれたように思います。パートナーの両親も同じような感じでした。
リアルな友人とも不妊に関する話はほとんどしたことがありませんでした。
職場に関しては、上にも書いたように同じ部署内だけ報告しました。部署の皆さんは、必要以上に聞くこともせずに淡々と受け入れてくださり、仕事もサポートしてくださりありがたかったです。
スタッフ:これから不妊治療を始める方へのアドバイスはありますか?
・治療開始前に、パートナーと治療の方向性に関してお互いの意思の確認をしてほしいです
・最初の通院や検査は出来る限りパートナーと2人で行ってください。女性が一人で頑張る事のないようにしてほしいと思います。
・クリニック選び関しては、近さや通いやすさだけでクリニックを選ばないでほしいです。特に地方になるとクリニックの数も少なく、どうしても通える範囲が限られてきますが、必要に応じて遠方への通院も検討してほしいです。
・可能な限り、最初から不妊専門クリニックを受診することをお勧めします。
スタッフ:改善してほしい点等はございますか?
・ホームページを見れば、検査の種類(先進医療を含む)、排卵誘発方法など各治療方針が誰にでもわかるようにしてほしい
・都市部と地方のクリニック格差の改善に乗り出してほしい
・不妊治療と仕事の両立が出来るように法整備をしてほしい。不妊治療休暇にも社会保障を適用させてほしい。
スタッフ:不妊治療の保険適用についてどう思われますか?
賛否両論、様々な意見がありますが、大きな1歩だったと思います。不妊治療の保険適用に救われた方、保険適用があったから、2人目・3人目を考えることが出来た方もいらっしゃいます。ここからさらに医療機関や患者の意見を聞きながらより良い方に改善されることを望みます。
特にPGTに関しては、先進Bにはなったものの、対応している医療機関も非常に少なく、多くの人が治療を断念するか、自費診療にするかで迷われているのを見るたび、先進Aもしくは夫婦染色体異常など特定の条件を満たす場合は保険診療になってほしいと思います。
回数制限や年齢制限などの課題も話題になっていますが、回数や年齢制限を撤廃、もしくは引き上げるのではあれば、治療終結に関するサポートを充実させる必要があると感じています。
スタッフ:プレコンセプションケアについてどう思われますか?
男女問わず、自分の体の事を知る機会を増やしていくべきだと思いますし、それらの機会に健康診断がもっと活用されればと思います。と、同時に不安や悩みについてもっと気軽に相談できる場所が必要だと思います。検査を受けた、結果をもらった、でもそれらを相談できる場所がないのでは、せっかくの取り組みを中途半端になってしまいます。
特に地方の場合は、婦人科クリニック自体も少なく、困ったら婦人科に気軽に相談にいける環境ではありません。プレコンセプションケアを進めるのであれば、同時に相談できる場作りも進めてほしいです。
ただプレコンセプションケアの情報発信が「産むこと」への圧力にならないことを願います。プレコンセプションケアと同時に、リプロダクティブ・ライツについても広めていく必要があると思っています。
スタッフ:自由回答(思うこと・お伝えしたいこと)
私自身は不妊治療と仕事の両立に悩み、最終的に仕事を諦めて、不妊治療を選択しました。ただこの選択を長年後悔し続けたのも事実です。今でも「不妊治療休職制度さえあれば 半年でいいから休職できたら、私の人生は違ったかも…」と思う時があります。
だからこそ、同じ思いをする人を一人でも減らしたく、不妊カウンセラーとして活動しています。
私自身が不妊治療退職をしてから約13年。不妊治療に関する認知は広がり、不妊治療と仕事の両立への取り組みをする企業も増えてきましたが、まだまだその広がりは充分でありません。どこに住んでいても、どのような職種についていても、望んだ人が不妊治療と仕事を当たり前に両立できる社会になることを願い、私も尽力していきたいと思います。