> インタビュー > 『不妊治療の保険適用という快挙』~1~

慶應義塾大学名誉教授 生命の環境研究所 吉村泰典先生に当サイトFCHがお話を聞きました。

スタッフ:4月から施行された不妊治療保険適用についての率直なご意見をお聞かせください

2020年の9月に菅義偉内閣が誕生して不妊治療の保険適用をするということになった時に、私は正直びっくりしたんですね。
40年以上私は生殖医療の黎明期から関わってきていて、40年間自由診療、いわゆる自費での診療でやってきたものを保険適用にするというのは、様々な問題点も出るだろうと。
本当にしっかりとした制度にできるのかということを思っていたのですが、1年半の間に菅総理が全てのものを動かして、我々も保険適用に向けて努力をしましたけれども、それ以上に厚労省を動かして、この難しい生殖医療を標準治療化しながら保険適用に持っていったというのは、快挙というか凄いと思います。
4月に始まってからも色々な問題点が出て来るかもしれないと思っていました。
ところが、例えば医療者側も些細なことはおっしゃいますけど、大筋では皆さんが良かったと思われています。
患者さんの経済的な負担を取るという意味でも良かったし、医療者側にとっても不妊治療にはこういう標準治療があって、どういうものが先進医療として一緒に使えるのか、こうしたことは医療側にのみならず患者さんにとっても分かりやすくなったのではないかと思います。
新しい制度を始めたわけですから、100点とは言えなくとも、80点はあるだろうと言うのが率直な感想ですね。

スタッフ:保険適用の利用について患者様からはどのようなご意見を聞きますか。

様々意見を聞きますが、患者さんも保険適用になって一時的にでもクリニックに高額なお金を払わなくて済むというのは、経済的な負担を取ったということは、患者さんにとっても非常に有難いことじゃないかなと思います。
それと、治療行為についてクリニックが丁寧に説明をしなくてはならないということになったんです。
初めに来院して、どういった治療が標準治療であって、その他に先進医療を望む時はこういった医療がありますと。
こういったことをご夫婦揃って来て頂いて、ご夫婦お二人に丁寧に説明をしなくてはならないという制度となりました。
そういったことが患者さんにとって非常に良かったと思います。
当事者団体の方々も非常に分かりやすくなったと言ってくれています。

スタッフ:不妊治療を受ける患者様へご配慮されていることがありましたら、また各クリニックの方々にこういった所を配慮して欲しいというところがあったら、お聞かせください。

今のところ保険適用になったから、こういったことを、というのはあまりないと思います。
今後の問題点として考えられるのは、今までは40年の間、海外で新しい医療技術がある、素晴らしい薬がある、そうしたものを全て直輸入の形ですぐ患者さんに使うことが出来たわけです。
ところが今後、新しい医療が出てきたときに、厚生労働省の認可を得る過程を踏むわけですから、新しい医療がすぐ使えないということも起こりうるのではないかということがちょっと心配されます。
今、保険で出来ないものには、PGT-Aというものがあります。
受精卵の染色体を調べて、染色体の正常なものを子宮に戻すと。
なぜPGT-Aをするかというと、染色体異常のものは流産することが多いので、流産を繰り返すことは患者さんにとって大変な苦痛だからです。
それが今は使えない。使うときは全て自費診療になってしまう。
今、先進医療として保険と併用できるよう検討しているところですが、これが使えるようになってくれば、今のところは制度上大きな問題点はないのではないかと思います。
このように新しい医療をいかに先進医療に組み入れていくかが重要になってきます。
私が初めに心配していたことはほとんど全てクリアされています。
菅総理の決断が素晴らしかったと思いますし、厚生労働省の職員の方々が非常に努力されて、精緻な保険制度を作ったと思います。
たったこの1年ちょっとの間で、実質半年ぐらいだったと思うんですけど、驚異的なものだと思います。

『数年後の未来、多くの不妊治療当事者が笑顔で子供を産めるように』~2~に続く

『不妊治療の保険適用という快挙』~1~

インタビュイープロフィール

慶應義塾大学名誉教授 生命の環境研究所所長

吉村 泰典