『不妊治療はこれまでにない大がかりな作業。医療側からも当事者側からも意見を聞き続け充実させたい。』〜1〜
厚生労働省 保険医局課 医療技術評価推進室長
中田 勝己
厚生労働省 保険医局課 医療技術評価推進室長 中田 勝己氏に 独占インタビューさせていただきました。
スタッフ:まず、今回の不妊治療保険適用の施行にあたり、様々なご苦労の中制度設計されたことに感謝致します。不妊治療当事者の期待を集める中、菅義偉総理大臣が保険適用を表明してから今年4月の実施までが1年半と、期間が限られる中での制度設計でもあり、そういった面でもご苦労があったと思うのですが。
いろんな点で苦労があったというのは事実ですが、原因不明の不妊などの不妊治療については、これまでは自由診療で行われていました。全く保険診療で実施されていなかった分野でありましたので、ゼロから保険診療の制度として積み上げていく必要があり、大変大がかりな作業となりました。
自由診療の中でも様々な治療が行われている中で、どのような治療が有効性・安全性の観点から保険適用の範囲とするのか中医協(中央社会保険医療協議会)で議論が行われました。非常に限られた期間において、中医協での議論を踏まえつつ、実態調査や学会ガイドラインの結果を一つ一つ積み上げながら、作業を進めてきたというのが実感です。
スタッフ:その中で、当事者の方に寄り添おうと考えた部分はどんなところですか?
保険診療の点数は、医療機関が行う診療への対価という位置づけになりますので、これまでは当事者の方から直接意見を聞くという場も限られておりましたが、今回はゼロから診療報酬の議論をスタートしなければならないということで、中医協の場で当事者団体の方からヒアリングをさせていただきました。
その中で、当事者の意見として、心理的サポートというものが大変重要であるとの意見がありました。医療者側とは異なる立場としての意見があり、中医協の委員においても非常に納得できるところがあったと思います。
この意見をきっかけとして、中医協において当事者の方の心理的なサポートができるような体制も評価すべきではないかとのご意見もあり、患者へのサポート体制を施設基準の一つとして反映することができたのではないかと思います。
不妊治療の保険適用については、新しくできたばかりの制度ですから、運用上の課題を検証して改善していく必要がありますので、引き続き、医療側からだけでなく、当事者側からの意見も伺いながら、診療報酬として対応が可能であるものについては中医協で議論して頂きたいと考えています。
スタッフ:薬剤に対しての保険適用も幅広く増えたと思いますが、どういった特徴がありますか?
保険診療で薬を使用する前提として薬事承認されている必要がありますが、不妊治療は長らく自由診療で行われてきましたので、これまで現場で使われてきた薬が、実は薬機法で未承認というものもありました。
そのような課題に対しましては、現場で当たり前に使っていて副作用も生じていないものについては、不妊治療が保険適用されるのに合わせて使えるように、事務局として迅速に手続きを進めてきたのが今回の特徴かと思っております。さらに今回は男性不妊に使う薬についても保険適用となったので、女性側だけでなく男性側にも対応しています。
スタッフ:保険適用が実現したことで、当事者にとってのメリットについてはどのように考えていますか?
保険適用が始まりちょうど今一カ月あまりが経ったところなので、良いところや課題が出てきていると思いますが、我々が考えている大きなメリットというのは、不妊治療が保険適用になって、全国的に標準的な治療内容や技術が普及するきっかけとなった事ではないかと考えています。一方で、標準的な治療というのは一つの枠として決まったものですけれども、これまではいろんなクリニックで先進的な治療を行っていただいて、それが妊娠に繋がってきたっていうことを、いろいろな医療機関の先生方からお話いただいています。標準的な治療が決まったのはメリットでもあり、先端的な医療が使いにくくなってくるというデメリットも当然あるんですけれども、そこは今の制度の中で保険と組み合わせてできる先進医療を活用していきたいと思います。先進的な治療については、どんどん医療機関からも先進医療として届出をして頂き、適正に評価していくことで、保険診療と保険以外のものも、きちんと使えるようにしたいと思っています。
また、混合診療を認めて欲しいという意見も頂く機会もあります。ただ、混合診療で実施された場合には、その情報を集約することはできません。先進医療というのは、その技術を活用した結果を情報収集する仕組みもありますし、先進医療の技術に位置付けられると、他の医療機関も希望する場合には実施することも可能となっています。一緒にやりたいとなれば、様々な医療機関でできるシステムであるので、我々は一つの医療機関が先進的だと思われたものは先進医療で実施できれば、それが他の医療機関にも広がったり、データが集まって早く保険適用に繋がるのではないかなというような思いがあります。
スタッフ:当サイトでは、杉山力一医師からアドバイスをいただいて、不妊治療の費用の負担軽減額の試算をしました。昨年度までの助成金と比べても、保険適用になると10万円ぐらい大幅に安くなる方が多くなりそうですが、やはりそういったところも当事者にとってのメリットですよね。
これまで、不妊治療のうち体外受精及び顕微授精については、1回の治療費が高額であることから、その経済的負担の軽減を図ることを目的に、30 万円を上限に、事後に助成が行われてきたところです。
今般の保険適用による患者の自己負担への影響については、個々人の治療ごとに、 保険適用前後での治療内容や、現状の医療機関における自由診療下での価格設定などが異なるため、一概に比較することは難しいと思いますが、保険診療に係る自己負担は、窓口での3割負担を原則としつつ、高額療養費制度による月額の自己負担限度額の範囲内になるものです。今後は、現場からの声をたくさんお伺いしてみたいと思っていますので、FCHさんの立場から負担額がどうなっているのか、集計していただくと本当に有難いと思います。
スタッフ:ちょっとこの質問は抽象的になるかもしれませんが、少子高齢化社会が我が国の大きな問題として取り上げられていますが、今回の不妊治療保険適用は、少子化社会に大きな一石を投じられたというふうに感じていますが、いかがでしょうか?
保険適用を決めた菅内閣の基本方針の中でも、少子化対策に資するために不妊治療を広げていく中で、その一つの手段としての不妊治療の保険適用ということかと理解しております。不妊治療の保険適用以外にも、不妊治療と仕事との両立の関係とか、心理的な課題に対するサポートとか、社会全体で支えていくための取り組みというのは当然、大事な部分ですし、そこも合わせてやらなくてはなりません。担当の思いとしましては、まずは、この保険適用を一つの手段として、きちんとレールに乗せていかなくてはならないと思っております。この少子高齢社会の大きな一石というのは、政権としての大きな判断があったからこそ、事務局としても頑張ってこられたというのは事実かなと思っています。
スタッフ:国民の間でもインパクトがかなり大きいですので、イメージとしても大きな一石だったなと一般の人間としてはそういう風に感じています。
有難うございます。いつも4月に診療報酬の改定終わった時に、様々な問い合わせが来ますけれど、今回は不妊治療についての問い合わせが本当に多くて、議会やマスコミの皆様からの問い合わせもありました。そのような状況から不妊治療の保険適用は社会的関心も非常に高いというのは感じておりました。