> インタビュー > 『不妊治療の経済的負担は保険適用で軽減。勇気をもってクリニックへ』

不妊治療の経験者として、2004年から不妊治療当事者に寄り添ってきた日本最大の当事者団体・NPO法人Fineの松本亜樹子理事長に、当サイトFCHがお話を聞きました。

スタッフ:NPO法人Fineを立ち上げられて活動をしてこられましたけれども、これまでの当事者の負担軽減に対する思い、政府への要請活動を続けるなかでの思いはどのようなものでしたか。

そうですね。政府もさまざまなサポートをしてくださるようになったと思います。ずっと昔のことから言えば、不妊治療の助成金というものが出来て。その後、その助成金の額を増やしていただけるようになってというところが、あったと思うんですね。そこから政府は不妊治療の助成金をベースとしながら、いろんなサポートを広げてくださっていると思いますけれど、不妊治療と仕事の両立に関してとか、そういったところに対しても厚生労働省のほうで動きを出してくださったことがありました。
でも、やはり最も大きかったのが、不妊治療の保険適用という今回の動きだと思います。おととしですが、菅総理がこの件を発表してくださった時から本当に事態が大きく動きました。その前の6月には自民党の中に不妊治療への支援拡充を目指す議員連盟も発足していただき、活動していただいたっていうところもすごく大きかったんじゃないかなと思います。

スタッフ:松本さんのがNPO法人Fineを立ち上げられた思いの中には、当事者の負担が少しでも軽くなればというところがあったと思うんですが、そのあたりはいかがだったんですか。

はい。Fineは2004年に任意団体として立ち上げた団体なんですけれど、なぜ立ち上げたかと言いますと、自分自身が不妊治療を経験しまして、様々な不自由な思いを味わったというのが思いの一番の根幹にあります。それで、4人の主婦が集まって、何ができるか分からないけれど、とにかく不妊当事者の声をどこか届けなければいけないんじゃないか、届けないことにはその社会全体というところに全然声が届かなくて、社会が変わっていかないんじゃないかという思いがあって、団体を立ち上げました。
そして、負担の軽減ということになると、不妊治療には四つの大きな負担があると私どもはいつも提唱しているんですが、まずは体の負担、それから心の負担、そして時間の負担と、お金の負担ですね。この四つに大別されると思っています。その四つの負担がそれぞれ重くのしかかってきて、そして当事者が困っている状況というのがずっとあったと思っています。Fineはそれを軽減するための活動を行っています。

スタッフ:ずっとそういった方々に寄り添ってくる中で、助成金も含めて、これまでNPO法人Fineさんの働きかけも含めて、当事者が頑張って政府は徐々に徐々に動いてきたっていうような感じですか?

そうですね。正直、最初はなかなか、動いていただけているという感覚はあまりなかったんですけれど、ちょっとずつ、例えば署名活動とか、国会請願というのを毎年毎年行ったり、あとは厚労省への要望書ですね、そういったものを出すにしたがって少しずつ声が届くようになってきて、そして本当に近年格段に声を聞き届けて頂ける機会が増えたと思っています。

スタッフ:不妊治療の保険適用の意義っていうのはどのように思いますか?

はい。意義はすごく大きなことがあると思っていまして、まず一番大きなのは保険適用にする程の治療なんだなって言う、それほど必要とされているものなんだなって思っていただける、それは当事者というよりも、周りの方からですよね。社会全体からそんなふうに思っていただけるっていうのが一番大きいと思うんですね。
それと、ちょっと言い方がふさわしいかどうか分からないんですけど、市民権を得た感覚というか、不妊治療自体を知っていただける、認めていただけるっていうのが、気持ちとしてやっとここまで来たのだなと思います。それから経済的な負担から言うと、やはり保険が適用されるというのはすごく大きなことですので、とても大きな意義があったと思います。

スタッフ:不妊治療の保険適用は4月1日からスタートするわけですが、不妊治療を受けやすくする環境づくりであるとか、社会のあり方っていうことも極めて重要だと思うんですけれども、そのあたりはどのようにお考えですか?

そうですね。不妊治療を受けやすくする環境づくりという意味で保険適用というのはとても大きな意義があると思います。これまでは経済的な負担が原因で、受けたくても受けられなかった、体外受精とかまではちょっと踏み越えられない大きなハードルがあったものが、そのハードルがすごく低くなったと思うんですよね。なので、これまで我慢していた方たちが受けられるようになったという意味では、環境としてはすごく整ってきたのかなと思います。

スタッフ:仕事と不妊治療の両立でありますとか、不妊治療は、男性が女性任せにしてしまう部分というのもあると思います。そういった意識も変えていかなくてはならないと思いますが、いかがでしょうか?

それらに関しては、残念ながらまだまだ足りないというのが現状だと思っているんですね。まず、仕事と不妊治療の両立なんですけれど、本当にまだ始まったばかりのことだと思います。これはざっくりですけれども、全体の一割ぐらいの企業の方が真剣に不妊治療と仕事の両立に関する何かしらのサポート制度を作ってくださっていると思うんですけれども、ただ、まだそれだけに過ぎないということ。それから、せっかく制度を作ってくださっていても、それが当事者にとって使いやすいのかどうなのか?というところの検証まで至っているという企業さんは、まだ多いとは言えない現状があると思います。厚労省でもこの点に関していろいろな取り組みをしてくださっていますが、まだまだこれからで、道半ばという感じがしています。
そして、男性の意識なんですけれども、意識は近年だいぶ変わってきたなあっていう感じは受けています。男性も病院に一緒に行くっていう事ですとか、男性自身もいろいろ学んでくださるという方も多いですし、あと私どもFineが行っているピア・カウンセリングの活動があるんですが、そこにカップルでカウンセリングを受けられたりとか、あと男性が一人で受けに来られたりっていうケースも若干ですが増えてきてるんですね。ですので、ちょっと意識は変わりつつあるなあっていうのがあるんですが、こちらもまだ道半ばかなという気はします。

スタッフ:4月1日から保険適用という形になるわけでありますけれども、保険適用以後、NPO法人Fineさんの活動としてはどういったことをやっていきたいか、教えてください。

そうですね。これまでの活動に関して、地道に目の前のことをやっていくっていうのは変わらないんですが、保険適用になっての変化をしっかり見たいなと思っていまして、しばらくして落ち着いたぐらいの頃に調査を実施しようと思っています。不妊治療に対して保険が効く前と、効いた後ではどのようにその意識が変わったのかとか、負担がどのように軽減されたのかなどということに関して、調査ができたらなと思っています。

スタッフ:不妊治療の保険適用にあたりまして、不妊治療の当事者の方々へのメッセージをお願いいたします。

不妊治療の保険適用については、まだ全体が見えていないというところもあったりとかして、不安に思っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、これで不妊治療に対する経済的な負担が軽減されるという一面がある、ということは確かですので、これまで、経済的なことが心配で治療を見送っていたとか、受けたくても受けられなくて辛い思いをしていたという方たちがいらっしゃったら、是非この機会に一度勇気を持って病院に行ってみられたらと思います。

スタッフ:我々のサイトも不妊治療をどうしたら良いだろうと悩む方々に、とにかく一歩を踏み出していただきたい、分かりやすく保険適用の情報発信をしていきたいと思いで立ち上げたのですが、新たな不妊治療の保険適用について負担軽減がどうなるのかなど知っていただくことが重要ですね。

今、当事者が気にしているのはどこまで保険が効くのかなっていうことが、とにかく一番気になっているわけですね。今、自分の受けている治療がどこまで保険が効いて、どこからが効かないんだろうと。最終的に保険が効くようになって、経済的な負担がどれだけ変化があるんだろうっていうところが、ものすごく今気になっているところなんですよね。それがもし一目瞭然に分かりやすく説明して頂けるようなサイトがあるのであれば。本当に助かると思います。そのようなサイトを作ってくださって有難うございます。これからのご活動に期待しています。

『不妊治療の経済的負担は保険適用で軽減。勇気をもってクリニックへ』

インタビュイープロフィール

NPO法人Fine 現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会

松本亜樹子

https://j-fine.jp/