【コラム】男性不妊治療の実態と未来への課題 ~男女ともに向き合うべき不妊治療~
不妊治療という言葉を聞いたとき、多くの方が女性を中心とした治療を想像するかもしれません。
しかし、実際には不妊の約半数は男性側にも原因があるとされています。
それにもかかわらず、男性が不妊治療に向き合うにはさまざまな障壁が存在し、適切な治療を受けるまでに時間がかかるケースが多いのが現状です。
今回は、男性不妊の実態と、その治療を受けるまでの課題、そして解決策について考えてみたいと思います。
1.男性不妊の実態~半数に及ぶ男性側の要因~
不妊の原因は、以下のように分類されます。
・女性側の原因:約40%
・男性側の原因:約40%
・男女両方の原因・原因不明:約20%
また男性不妊の主な原因には、次のようなものがあります。
・精子の異常:精子の数が少ない、運動率が低い、形態異常がある。
・生殖器の異常:精巣静脈瘤やホルモンバランスの乱れ。
・生活習慣や環境要因:喫煙、肥満、過度の飲酒、ストレス、環境汚染など。
このように、男性不妊の原因はさまざまですが、治療に向けた行動を男性自身が起こす割合は女性と比べて低い傾向があります。
2.男性不妊治療の障壁は、診察や治療への心理的ハードル
男性が不妊治療に取り組む上で、以下のような障壁が指摘されています。
①不妊に対する認識不足
男性不妊は身体的な問題に限らず、社会的な認識の低さも大きな課題です。不妊は女性の問題だと思い込んでいる男性もまだまだ少なくありません。
②診察への抵抗感
泌尿器科や男性不妊専門クリニックを訪れることへの心理的抵抗が高い傾向があります。「恥ずかしい」「面倒」といった感情が行動を妨げています。
③治療法や費用に関する情報不足
男性不妊治療の選択肢やその効果、費用についての情報が不足しているため、治療への第一歩を踏み出しづらい状況があります。
④治療に対する社会的サポートの不十分さ
男性不妊に関する職場や社会全体の理解が進んでおらず、治療や診察のための時間を確保するのが難しいケースも見受けられます。
3.男性不妊治療を推進するために必要なこと
①啓発活動の強化
・男性不妊の実態や治療の重要性を広く周知するための啓発キャンペーンが必要です。特に若い世代に向けた健康教育に男性不妊の知識を取り入れることで、早期発見・治療につなげます。
②診察のハードルを下げる
・オンライン診察や簡易検査キットを活用し、気軽に精子の状態を確認できる仕組みを広める。
・泌尿器科や男性不妊クリニックの存在を地域単位で周知し、受診への抵抗感を軽減する。
③生活習慣改善のサポート
・男性不妊に寄与する生活習慣病を予防するための健康管理プログラムを提供。
・喫煙や過度の飲酒を控えるためのサポート体制を整備。
④治療費への支援拡大
・男性不妊治療にかかる費用を国や自治体が補助することで、経済的負担を軽減。
・治療を受けるための休暇制度の導入を企業に推奨。
4.男性不妊治療の保険適用化に向けて
2022年から、女性側の体外受精や顕微授精が公的医療保険の適用対象となりましたが、男性不妊治療はまだ適用範囲が限られています。
男性不妊治療の保険適用が拡充・緩和されることで治療の敷居が下がり、多くの男性が適切なケアを受けられる環境が整います。
例えば、次の治療が保険適用緩和されるようになると、患者さんの負担軽減が期待できます。
・精巣内精子採取術(TESE)
精巣から直接精子を採取する手術。無精子症の患者さんが対象。
・ホルモン療法や薬物治療
男性ホルモンバランスの調整や精子生成を促進する治療。
5.男性不妊治療が拓く未来
男性不妊は決して特殊な問題ではなく、多くの夫婦が直面している現実です。
それにもかかわらず、治療が進みにくい現状を改善するためには、社会全体での意識改革と制度的なサポートが不可欠です。
男性が気軽に診察や治療を受けられる環境を整えることで、夫婦双方の負担が軽減され、不妊治療全体の成功率も向上します。
特に男性不妊治療の保険適用を進めることで、より多くの人が治療にアクセスできる未来を目指したいものです。
当サイトでは、「不妊治療は女性だけのもの」という固定観念を解消し、男女ともに前向きに治療に取り組める社会の実現を啓蒙していきたいと思います。